“マンションに生き物を呼ぶ植栽” SDGsを住まいで実現する事例

 最近、マンションの植栽設計に携わる機会が増えています。 これまでとは違う、新しい価値観のマンション植栽について、触れてみたいと思います。昨今話題のSDGs。ゴール15「陸の豊かさも守ろう」。住環境の中に生物多様性を育み、住むことでSDGsに貢献できる試みです。

マンション植栽の新しい価値

これまで、マンションの販売は立地条件の他、建築意匠や設備等、建築を中心とした競争が繰り広げられてきました。しかし、近年、それらは一定の高い水準を満たすようになってきました。そこで最近は、他のマンションと差別化を図る上で外構が注目されるようになってきました。

これまで優先度が低かったマンションの外構ですが、最近は植栽の美しさや季節感に加えて、生物多様性に配慮した生態系(生き物同士のつながり)を育むことに価値が見出されてきています。その表れとして、緑地の価値や緑地に対する企業の取り組みを評価するSEGES、ABINC、JHEPといった緑地認証を取得するマンションの事例が首都圏、関西圏を中心に増えています。

生物多様性に配慮した植栽は、デザインに流行り廃りがないこと、建築が経年劣化していくのに対して適切な維持管理を行うことで経年的に良くなっていくことから、マンションの資産価値を落としにくいというメリットがあります。さらに生き物が棲める健康な都市環境は、住む人に安らぎをもたらしたり、子育てによい環境となるだけでなく、地域の自然環境にとっても価値があるところが大きなポイントです。

生き物を呼ぶ植栽

では、そのような環境をどのように作っていくのでしょうか?

 まず最初に、マンションの周辺にどのような自然環境が存在し、そこにどんな植物、生き物が生息しているか調査を行います。その結果から、「地域の樹林、草地、水辺などの植生」、「そこに棲む生き物」を設定し、それらが棲める植栽を計画します。餌を採る場所、休む場所、産卵する場所なども考えます。例えば、蝶を呼ぶためには花などの吸蜜植物、鳥を呼ぶためには餌となる実のなる植物など、生き物が来たいなと思える環境をつくりだします。そうして、いろいろな生き物が飛来する環境が整うと、マンションの植栽でありながら、食う食われるの食物連鎖の関係が生まれ、そこには小さな生態系が誕生します。

実際どうなの?~その後の展開

 そんな植栽は管理が大変なんじゃない?本当に生き物は来るの?虫がいっぱい出るんじゃない?見た目はどうなの?と思われる方もいると思います。

 実際は飛来する鳥が虫を食べることから害虫駆除の回数が減ったり、多様な種類の樹木が入るので特定の害虫が発生しづらいなどのメリットがあります。また、植栽を単木で1本ずつ樹形管理するより、樹林(かたまり)として見栄えがよければいい、といった管理の方が簡単だったりします。

 さらに認証システムの中には、作った後の管理や啓発まで評価基準があるため、住人向けに自然観察会のイベントや、植栽管理についての講習会を開催するなど、住民同士が積極的に関わり合うような仕組みが生まれます。それがコミュニティの形成や自然への愛着を生み育てていきます。

 個々のマンション植栽は、都市の中の緑の小さな点に過ぎません。しかし、周辺に元からある自然も含めて、個々の点が線となり、やがて面になっていくと、身近な生き物とふれあえる都市環境が生まれます。そこに生活する人たちの笑顔が溢れるような場所になるといいなあ、と思いながら取り組んでいます。

written by 高瀬