【後編】人が人らしく生きていくために、 農業応援団を育成する「教育ファーム」を。小森一秀インタビュー

交流・景観・建築デザインの力で“感動”を演出するために、企画から事業計画・運営までトータルにプロデュースしている株式会社TONZAKOデザインが贈る、仕掛け人インタビューのコーナーです。まずは、TONZAKOデザインのメンバーのインタビューからスタートします。仕掛け人たちと共に、感動体験をつくるメンバーたちの個性を感じとっていただけたら幸いです。

クリエイターインタビューNo.3(後編)

「ランドスケープデザイン」の松崎氏と倉方氏、「建築設計」の山田氏、「事業デザインから施設運営」の小森氏。その4人が5人の仲間と立ち上げたTONZAKOデザイン。まだ設立1年だが、いろいろな相談が持ち込まれています。そこには言葉にできない不思議な魅力があります。その魅力を探るべく、立ち上げメンバー4人の経歴や考え方、何を考え、どこに向かおうとしているのか?また、プライベートをお届けします。

コミュニティクリエイター 小森一秀 Kazuhide Komori[後編]

取材日:2020年6月1日

後編~目次~
僕の仕事は、交流デザイン部門。今は「指定管理者」として公共施設の運営をしています。
クリエイターとは、ちょっと先の未来がイメージできる人。
TONZAKOデザインに今足りないのは、価格決定権とTONZAKOデザインのファン。
韓国や中国も課題が地域活性化なんですよ。今、それぞれの国の企業さんのコンサル中です。
新型コロナウイルスの影響で、海外からの野菜が入って来なくなるかも。
死ぬまでにやりたいこと?日本に教育ファームを増やして、そこを行脚することかな~。

僕の仕事は、交流デザイン部門。
今は「指定管理者」として公共施設の運営をしています。

現在は2つの施設の指定管理の中の一部を担っています。一つは、2019年4月1日にオープンした『歴史の里志段味古墳群』があります。この施設は、名古屋市教育委員会が整備を行い、中電興業株式会社、岩間造園株式会社、ニワ里ネットそして弊社の4者が共同で指定管理者として運営にあたっています。

古墳を保存しながら作った公園で、古墳時代を感じる体験プログラムを多彩に開催しています。そこに農業を体験する畑もあります。今後の企画をたくさん考えてワクワクしていたのに、新型コロナウイルスの影響でイベントは軒並み開催中止に。せっかくの企画をどうしようか。アレンジして動きたい。今は現場に入り、即断即決で汗をかいています。じっとしてても仕方ないですからね。「やりたい!」って気持ちを周りに話しているうちに、「じゃあやれる方向を考えよう」と現場のムードが変わってきました。

もう一つは、2019年11月にスタートした、春日井市農業ふれあい公園の『あい農パーク春日井』です。春日井市の事業で、株式会社トヨタエンタプライズ、岩間造園株式会社、そして弊社TONZAKOデザインの3社が共同で指定管理者として運営にあたっています。

僕はアドバイザー的な役割と今は実際に運営する役割にもあたっています。

そこの農場の広さは3ヘクタール。野球場1個分ぐらいを想像してみてください。そこで、季節の野菜を作っています。1年目なので、僕も現場に入って、がっつり作物を作っていますよ(笑。真っ黒でしょ?新型コロナウィルスで、室内イベントは軒並み中止ですが、農作物はすくすく成長しますからね。

クリエイターとは、ちょっと先の未来がイメージできる人。

僕が考えるクリエイターとは、「ちょっと先の未来」をイメージできる人。「今いるこの場所がどう変われば嬉しいかな、どんなサービスを受けられたら嬉しいかな」その答えを具体的にイメージできて、どんな手を打てば良いか分かっている人です。ちょっと先の未来というのが僕なりのポイントかな。5年、10年後といった遠い未来ではなく、“次の夏休みどうしよう”くらいがちょうど良い。僕も受け取り側もリアリティを持って発想できます。

これまで仕事で色んな企画を考えてきましたが、企画だけじゃ面白くなくて、実際に動いてみるのが好き。企画から実行までの時間が短ければ短いほど、熱い気持ちで取り組めます。「鉄は熱いうちに打て」ですね。あとはね、短期のプランの方が失敗しても許されます。何年もかかった末に失敗してしまうと、えらいことになっちゃう(笑)。

愛知万博の仕事では「もう無理でしょ」っていうタイミングで計画変更がありました。もう四の五の言わずにやるしかなく、火事場の馬鹿力でどうにか乗り越えました。やればできるものだ、というのがその時の教訓。どんな事でも予算・人員・時間に限りがあります。理想を掲げながらも折り合う地点を見出し、多少強引でも着地させる。そのために締切はとても大切ですね。

僕は結果をすぐ見たいタイプなのかも。まずやってみて、お客様の反応を見て、変えていく。僕にかかわるスタッフは大変で、皆振り回されています。「また小森が変なことを言ってるよ」ってムードになっても、僕が率先して楽しく動いちゃうので、「仕方ないなぁ」って感じで皆は付き合ってくれているのかな。

TONZAKOデザインに今足りないのは、
価格決定権とTONZAKOデザインのファン。

松崎とは前々職からの付き合いです。同じ会社の名古屋の事務所で5年ほど一緒に働きました。モクモク時代にはコンサルとしての仕事で設計図が必要になると松崎に依頼していました。その後個人事業を始めつつTONZAKOデザインに居候させてもらっていたころに、松崎に意見を求められ企画をいくつか出したんです。「コンペに参加したいから」と言われ……。その企画が名古屋市と春日井市の指定管理の仕事ですね。「じゃあ腰を据えて働かないと」と、松崎の会社に入りました。

4人のチームになって変わったことは、僕自身の仕事は実はあまり変わってません。新たに「3人が僕のこと“うるさい!”って思ってるんじゃないかな」という心配が加わりました(笑)。

何より、この会社を成功させたい。力もネットワークも既に持っている松崎・山田に、もう一回り大きく成長して欲しい。上から目線で心苦しいんだけど、でも言っちゃいます。あらゆることを指摘しちゃいます。

TONZAKOデザインを俯瞰して見ると、可能性をすごく感じます。僕もこの会社にどっぷり浸かって働くつもり。だから皆には会社の社会性をもう少し意識して欲しい。松崎、山田は「TONZAKOデザインは4人の会社」って思っているけど、僕は代表取締役ではありません。権限が違う。立場が違う。それで一度、彼らを怒鳴りつけちゃいました「俺たち4人は横並びじゃねぇぞ。代表取締役と平社員だぞ(違いますが…)」と。彼らなりに僕に気を遣ってくれているんでしょうけどね。ちょっと見た目年齢が上なんで(笑。

社内・社外の人達は、皆冷静に見てると思いますよ。「TONZAKOデザインはこれからどうなっていくんだろう」と。TONZAKOデザインに今足りないのは、価格決定権とTONZAKOデザインのファン。ファン獲得のために努力する必要があります。B to Bの会社のファン獲得とは、付き合うあらゆる人へのサービス。関わった担当者さんがいずれどの部署に移っても、TONZAKOデザインのことを頭の片隅に置いてもらえるように。在任中に良い関係を築き上げられるよう、最大限のサービスが必要です。

韓国や中国も課題が地域活性化なんですよ。
今、それぞれの国の企業さんのコンサル中です。

モクモクファームを退職した後にお声がけいただいて、個人事業で、いろいろな農業の6次化事業に関わらせていただいています。一部は下記です。韓国や中国では、文化も違うし言葉も違いますが、基本的なことは同じかなという感じですね。もちろん違うと思う所もあります。例えば有機農産物を例に取れば、韓国は農産物を育てる基準が厳密に決まっているので基準で選びますね。日本では、遠くで作っているオーガニック野菜より、近くの農家さんの野菜を選んで買うイメージですね。中国は少し前の状況ですが、認証制度もいっぱいあるけれど、それがあまり信用されていない感じでした。

1)株式会社戸倉トラクターのアドバイザー
愛知県愛西市の若い農家さんです。「パソナ農援隊」さんから紹介を受けて始めました。先日セントレアで開催した「空飛ぶ八百屋」も一緒にやりました。

2)カゴメ野菜生活ファームのアドバイザー
不定期で入らせていただいています。長野県に2019年の4月にオープンした農業体験施設です。工場の横に集客施設を作ったんです。プラン作りからお手伝いしていました。

3)農林水産省6次産業化プランナー
こちらは、いろんなところから呼ばれていく感じですね。

4)韓国の乳業会社「メイル乳業(毎日乳業)」アドバイザー
乳製品だけではなく、最近はいろんな食品を作ったり、カフェのチェーンも展開しています。アドバイザーをしている農業公園ではこの夏はプールまで作ってしまいました。

5)中国桐郷市「華謄猪舎里庄園」アドバイザー(嘉兴华謄牧业有限公司)
こちらは養豚会社さんで、「もっと地域に役に立ちたい!」と養豚場と観光施設をセットにして運営しています。

新型コロナウイルスの影響で、
海外からの野菜が入って来なくなるかも。

農業も新型コロナウイルスで、外食産業や観光産業が大きな打撃を受けたことから農産物の需給バランスが崩れ様々な影響が出ました。やはり、これからますます大事にしないといけないのが、地域産業としての農業です。そのためには農業をやる人が必要です。それもきちんと食べていける農業にすること。スマート農業も必須ですね。その力添えするのが、これからの僕の仕事かなって思っています。

まずは、消費者側の意識を変えたい。消費者教育、食育とも言われますね。

僕の提案はこうです。世のお母さん方に農業体験をしてもらい、普段スーパーに並んでいる野菜がいかにエリート野菜か気づいてもらうのです。どうしてあんなに形が均一で、あんなに虫食いなく生産することができるのか。スーパーに並ぶ野菜は選び抜かれたエリートで、プロ農家の努力の賜物。「農作物を見る目を養って」と何度言ってもピンと来ないもの。だから体験が必要です。TONZAKOデザインが携わっている『あい農パーク春日井』のような“農”とふれ合える公園。このような取り組みによって、農業応援団はきっと増えるはずです。

死ぬまでにやりたいこと?
日本に教育ファームを増やして、そこを行脚することかな~。

農業応援団を増やすもう一つの方法は、子どもの教育。子どもの“青田刈り”です。言い方は悪いが子どもを洗脳しちゃう(笑)。農業を職業として意識しながら育つ子どもは、残念ながら今はいません。それを変えるべき。“農業は楽しい仕事、やりたい仕事”というイメージを子どもに植え付けるのです。

フランス国民は郷土愛が強いことで有名ですね。それの根源が教育ファームだと実感しています。『モクモク』時代、毎年フランスから研修生が来ていたのですが、日本の美味しい料理を出しても、絶対フランスの料理が美味しいというんです(笑。

農家の人も、チーズ作りの人もすべて先生なんですよ。美味しいものを毎日食べて「○○さんが作ったチーズは最高だなぁ、誇らしい」と。その延長線上に、郷土愛や農家に対する憧れの眼差しが育つのだと思います。フランスには子どもの頃から地元農家さんに学びに行く授業や、農業を学ぶ施設“教育ファーム”が根付いているんですよ。
※教育ファームの数は、2013年に1,800以上と言われています。

日本では最近になって、新潟市で“教育ファーム”での授業が学校教育に組み込まれました。『アグリパーク』という施設。日本で唯一の試みです。関わらせていただいて、嬉しかったですね。『アグリパーク』で学ぶのは、国語・算数・理科・社会そして道徳も。外で身体を動かしながらあらゆる教科を学びます。例えば掛け算で作物の実入りを計算してみたり、耕作地の面積を計算してみたり。「なぜ掛け算を勉強しなきゃいけないの?」という疑問の答えを、農業してみると理解できます。「勉強は必要だ、勉強しよう」とか「農業は必要だ、農業しよう」と、子ども自身がその必要性を認識できます。

この教育ファームがどれだけ素晴らしいか、何度語っても“見てない人”にはピンと来ない。「学校が教育ファームに子どもを預ければ、忙しい先生も助かりますよ!」と言っても全然伝わらない(笑)。だけど僕はやるしかない。僕が携わっている『あい農パーク春日井』から教育ファームの必要性を地道に伝え続けようと思います。いずれは各都道府県に一つの教育ファームができるように!

興味がある行政の方がいたら、気軽に連絡してほしいです!行政にしかできないことがありますから!

取材:川北睦子

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