都市のエアコン

最近、「数十年に一度」「これまでに経験したことのない」と表現される気象災害が、毎年のように発生しています。

2024年には、世界の年平均気温が産業革命前と比べて約1.55℃高くなり、観測史上初めて、単年で1.5℃を超えました。ただし、パリ協定の1.5℃目標は長期的な平均気温を対象としているため、直ちに目標を超過したという意味ではありません。それでも、私たちが1.5℃の世界に急速に近づいていることを示す重大な事実です。

日本でも、40℃を超える気温、線状降水帯、熱中症警戒アラートなど、以前にはあまり耳にしなかった言葉が、日常のものになりつつあります。

かつては30℃を超えると「今日は暑い」と感じていました。しかし現在では、最高気温が30℃程度なら、むしろ涼しいと感じることさえあります。各家庭や企業ではエアコンがフル稼働し、空調設備なしに都市生活を維持することが難しくなっています。

学校やスポーツの現場でも、暑さ指数WBGTが31以上になると「危険」とされ、特に子どもの運動は原則として中止すべきとされています。

都市に住むことそのものが、次第に厳しいものになっているのです。

なぜ、森のそばでは涼しい風を感じるのか

そのような都市の中でも、まとまった森のそばを歩くと、ふと涼しい風を感じることがあります。

一方、街路樹の下に入っても、日射を遮ることはできるものの、森のそばほどの涼しさを感じられない場合があります。頭上には木陰があっても、周囲の道路や建物が熱を蓄え、そこから強い放射熱が伝わってくるためです。

森の涼しさは、一つの作用によって生まれているのではありません。

樹冠が日射を遮り、地面や建物の温度上昇を抑える。樹木が土壌から吸い上げた水を葉から蒜散させ、その際の気化熱によって周囲の熱を奪う。落ち葉や腐葉土に覆われた地面が水分を保持し、アスファルトやコンクリートのように大量の熱を蓄えない。

こうした作用が重なることによって、森の内部には周囲より温度の低い空気が形成されます。

つまり森は、空気を人工的に冷やす機械ではなく、日射、土、水、植物、風の循環を利用して熱環境を調整する、自然の冷却装置なのです。

街路樹一本と森の違い

街路樹一本にも、大きな意味があります。

樹冠が直射日光を遮ることで、歩行者が受ける日射を減らし、舗装面の表面温度上昇を抑えます。特に人間の体感温度を考えるうえでは、気温そのものよりも、日射や地面から受ける放射熱を減らす効果が重要です。

しかし、一本の木がつくる冷気は、周囲の暖かい空気や風によって拡散します。そのため、街路樹一本だけで広い範囲の気温を下げることには限界があります。

これに対して森では、樹冠が連続して地面を覆い、その下に保水性のある土壌と下草が広がります。日射遮蔽と蒸発散が面的、立体的に働くため、森林内部に比較的安定した低温域、すなわち「クールアイランド」が形成されます。

さらに、そこで冷やされた空気が風や地形に沿って周辺市街地へ流れ出す「冷気のにじみ出し」も生じます。国土交通省も、緑地や河川には冷気を周囲へ運び、市街地の温度を下げる働きがあると整理しています。

森は、どれくらいの大きさが必要なのか

冷却効果は、単純に面積だけでは決まりません。

同じ1haの緑地でも、芝生だけの広場と、高木の樹冠が連続し、湿潤な土壌や下層植生を持つ森とでは、効果が異なります。また、緑地の形、樹木の密度、土壌水分、風向、周囲の建物密度によっても、冷却の強さや到達距離は変化します。

研究によれば、0.5〜2ha程度の小規模緑地でも周辺を冷やす効果は確認されていますが、その影響は比較的小さく、あるレビューでは約40mの範囲で最大0.3℃程度と報告されています。

一方、規模が大きく、樹冠が連続した緑地ほど、一般的に冷却効果は強く、遠くまで及びます。ただし、その到達距離は一律ではなく、調査によって100m程度から数百m以上まで幅があります。

したがって、都市の暑熱対策では「最低何haあればよい」と考えるよりも、次の三つのスケールを組み合わせることが重要です。

  • 街路樹、庇、緑陰によって、人が歩く場所を直接守る
  • 小公園や学校、公共施設に小さな冷却拠点を分散させる
  • 数ha以上のまとまった樹林を都市の冷熱源として保全する

エアコンから、都市のエアコンへ

建物のエアコンは、室内を冷やす一方で、室外機から熱を都市空間へ排出します。個々の建物を冷やすほど、都市全体には熱が放出されるという矛盾を抱えています。

森は、その逆です。

太陽の光を受け止め、水を循環させ、地表面の温度上昇を抑え、周囲に冷気を送り出します。それだけでなく、雨水を蓄え、生きものの生息環境をつくり、炭素を固定し、人の心身を回復させます。

これからの都市に必要なのは、余った土地を緑化するという発想ではありません。まとまった森を都市の基幹的な環境インフラとして位置づけ、そこから生まれる冷気によって都市を冷やすことです。

これまでの街区公園や学校では、中央に運動や遊びのための広い空地を設け、その周囲を樹木で囲む構成が一般的でした。人口が増加し、屋外で自由に活動できた時代には、それが合理的な空間だったのだと思います。

しかし、酷暑によって屋外に出ることさえ危険となり、校庭や公園が使えない日が増えている現在、広い空地を確保するだけでは、本来の役割を果たせなくなりつつあります。日射を受け続ける校庭や舗装された広場は、大量の熱を蓄え、夕方から夜間にかけても都市を暖め続けます。

そこで、都市の土地利用を一度、反転して考えてみる必要があります。

学校の校庭は、おおむね1ha前後のまとまった土地です。街区公園は標準的には0.25ha程度ですが、都市の中に歩いて行ける範囲で分散しています。これらを単なる運動場や空地としてではなく、都市を冷やすための「冷却拠点」として捉え直してはどうでしょうか。

校庭や公園のすべてを一様に鬱蒼とした森にするということではありません。必要な運動空間、避難場所、地域行事の場を確保しながらも、空間の相当部分を樹冠で覆い、舗装を減らし、土壌に雨水を蓄え、木陰の下で学び、遊び、休める環境へと再編するのです。

例えば、校庭の中央に一面の運動場を設けるのではなく、運動に必要な空間を集約し、その周囲にまとまった樹林を育てる。学校林、自然観察園、雨庭、木陰の教室、散策路などを組み込み、子どもたちが日常的に自然と関わりながら過ごせる場所に変えていきます。

街区公園でも、中央の裸地と周囲の植栽という構成を見直し、樹冠が連続する森の中に、遊び場や広場、ベンチ、園路を配置します。活動のために自然を取り除くのではなく、自然の中に活動の場を埋め込むという考え方です。

0.25ha程度の街区公園であっても、樹冠が連続し、保水性のある土壌を備えた森として整備すれば、夏季の森の内部では、周囲の市街地より気温が1〜2℃程度、地表面温度が10〜20℃程度低くなる可能性があります。気温差そのものは小さく見えても、日射と地表面からの放射熱が大幅に減るため、体感上はそれ以上の涼しさを得ることができます。

そして、学校、街区公園、近隣公園、河川、街路樹、民有地の緑をつなぎます。点在する緑地が相互につながれば、それぞれが冷気を蓄える小さな「室内機」となり、河川や緑道、道路が冷気を運ぶ「風の道」となります。

これは単なる公園の緑化ではありません。都市全体に自然の冷却システムを組み込む計画です。

もちろん、森だけで猛暑の問題をすべて解決できるわけではありません。建物の断熱、日射遮蔽、保水性舗装、水循環、風の道、公共交通など、さまざまな対策を重ねる必要があります。しかし、森は電気を消費することなく、複数の環境問題に同時に働きかけ、時間とともに成長していく都市インフラです。

建物にエアコンが必要であるように、これからの都市には、都市そのものを冷やすエアコンが必要です。

都市の中心に空地を残し、その周囲をわずかに緑化する時代から、森を中心に据え、その中に人の活動を組み込む時代へ。

その役割を担うのが、都市の森なのです。