特集記事 World ZOOミュージアム 「言葉から動物園を見る5 生き物を保全する世界目標と動物園」

動物園を設計しているTONZAKOデザインが、世界の動物園について、設計者の視点から、紹介していきます。その前に、動物園に関わる言葉について、整理しておこうと思います。

1.ワシントン条約と生物多様性条約

世界的な決まり事である条約と、その実現に向けた国内法が整備されているのです。各条約と国内の法律の関係は以下のようになります。

ワシントン条約(CITES:Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)と生物多様性条約(CBD:Convention on Biological Diversity)は、どちらも地球上の生き物を守るための、世界共通の約束(国際条約)です。

条約名ワシントン条約(CITES)生物多様性条約(CBD
正式名称絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約生物の多様性に関する条約
発効年1975年1993年
主な目的国際取引による種の絶滅を防ぐ生物多様性の保全・持続可能な利用・利益の公正な配分

このような世界のルールを日本でも実行できるように、それぞれの条約に合わせて、日本では国内の法律がつくられています。

ワシントン条約(CITES)に合わせて作られたのが、「種の保存法(1992年)」です。この法律は、絶滅しそうな動植物を、その売り買いをしっかり管理することで、守ります。

生物多様性条約(CBD)に合わせて作られたのが、「生物多様性基本法(2008年)」です。この法律は、いろいろな種類の生き物たちが、ずっと地球で生きられるように社会全体で守っていこうという考え方です。

つまり、世界で決めた生き物を守るルール(条約)を、実際に日本で進めるための法律がしっかり整えられているのです。

法律・条約名内容主な目的
ワシントン条約(CITES)絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を規制する国際条約(1975年発効)絶滅の危機にある種の乱獲・密輸を防ぐため、国際取引を制限
種の保存法(正式名:絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)日本国内における希少種の保護と管理を定めた国内法(1992年施行)絶滅危惧種の保全を国内で実施(生息地保護、人工繁殖、取引規制)
条約・法律名内容主な目的
生物多様性条約(CBD1992年の地球サミットで採択。国際的に生物多様性を保全し、持続可能な利用を推進。生物多様性の保全、資源の持続可能な利用、公平な利益配分
生物多様性基本法日本の生物多様性条約に基づく国内実施法(2008年施行)生物多様性の保全と持続可能な利用を、国・地方・市民が協力して推進する体制づくり

2.ワシントン条約と種の保存法

「ワシントン条約」(正式には「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」)は、動物や植物が売買などの国際取引によって絶滅しないようにするための世界共通のルールです。この条約に基づき、日本では1992年に「種の保存法」という法律が作られました。この法律は、日本国内で絶滅しそうな生き物を守るためのもので、生き物の取引のルールを定めたり、飼育や繁殖、棲む場所(生息地)を守ったりすることが決められています。

1973年3月3日にアメリカのワシントンで決められたため、「ワシントン条約」と呼ばれています。日本をふくむ約170か国が参加しており、日本は1980年にこの条約に加わりました。ちなみに、3月3日は「世界野生生物の日」とされています。

2-1.なぜワシントン条約が必要だったのか?

昔から人間は、ゾウの牙(象牙)やトラの骨、サイの角、オウムやカメなどの生きた動物を、薬・衣服・装飾品・ペットなどに利用してきました。1960年代、特にアフリカでは、ゾウやサイをねらった密猟(みつりょう)=ルールを無視した狩りが急増しました。

その頃は国際的なルールがなく、野生動物が自由に売買され、数がどんどん減り、絶滅の危機が高まっていました。そこで、「密猟しても売れないようにする=取引そのものを国際的に規制する」ためにつくられたのが、ワシントン条約です。

具体的なCITESの対象の事例取り扱いの規制
象牙(ゾウの牙)原則取引禁止(附属書Ⅰ)
トラの毛皮や骨完全禁止(附属書Ⅰ)
オウムやリクガメ(ペット用)輸入制限(附属書Ⅱ)
高級木材(ローズウッドなど)許可制(附属書ⅡまたはⅢ)
区分対象
国内希少野生動植物種日本国内に生息・生育し、絶滅のおそれがある種トキ、イリオモテヤマネコ、アマミノクロウサギなど
国際希少野生動植物種CITES(ワシントン条約)に基づき、日本が指定した外国種トラ、ゾウ、オウム、ランなど
生態系被害防止外来種(関連種)国内生態系に悪影響を与える外来種アライグマ、カミツキガメ(※保護ではなく規制)

2-2.ワシントン条約の内容

ワシントン条約では、世界の野生動植物を守るために、25の基本ルールが定められています.特に注目すべきは、絶滅の危険度に応じて動植物が「附属書Ⅰ~Ⅲ」のリストに分類されている点です。附属書Ⅰに登録された動植物は、商業目的の国際取引が原則禁止になります。日本国内でも「国際希少野生動植物種」として、法律によりしっかり守られます。

種の保存法による具体的な対策(日本国内)

日本では、ワシントン条約を実行するために「種の保存法」が定められています。この法律では、希少な野生動植物を守るために、以下のような対策がとられています。

捕獲・採取・殺傷・売買の禁止(国内種・国際種ともに)

許可なく動物を捕まえたり殺したり、売ったり買ったりすることは禁止。違反すれば、懲役や罰金などの罰則があります。

生息地の保護

特に大事な場所は「生息地等保護区」に指定。開発や立ち入り、木の伐採などが制限されます。「普通地域」と「特別地域」で、規制の強さが違います。

保護増殖事業(数を増やすための活動)

国や自治体が、人工繁殖や野生復帰を目的とした計画を作ります。トキの繁殖(佐渡)などが代表的な取り組みです。

登録制度(国際希少種)

ワシントン条約の附属書Ⅰの種を飼ったり展示したりする場合、環境省への登録が必要です。展示や教育目的でも、登録票の表示が義務づけられます。

2-3.動植物園の役割と「認定制度」

動植物園は、「種の保存」にとって大切な場所です。日本には「認定希少種保全動植物園等」という制度があります。これは、希少な動物や植物を守るために一定の条件を満たした動植物園を、環境大臣が認定する制度です。

国内では、札幌市円山動物園、那須どうぶつ王国、東京都恩賜上野動物園、よこはま動物園ズーラシア、豊橋総合動植物公園、富山市ファミリーパーク、神戸どうぶつ王国などの動物園が認定されてます。

認定園には、動物のやりとり(個体の移動)を通じた繁殖協力、来園者への教育・啓発活動(野生動物の大切さを伝える)、種の保存に取り組む公共的な施設としての役割を明確にすることが求められます。

こうした理由から、動植物園は、日本国内だけでなく世界の野生動植物を守るためにも、大きな役割を果たしているのです。

3.生物多様性条約と生物多様性基本法

3-1.急速な生物多様性の喪失にストップをかける

20世紀後半から、森林の伐採、湿地の開発、海洋汚染、都市化の進行などにより、世界中で生物多様性の急速な喪失が深刻な問題となっていました。特に、熱帯雨林など生物多様性の豊かな地域での破壊が進み、1日に数十種もの生物が絶滅しているとも推定されていました。こうした状況の中、人類の経済活動や暮らしと自然との関係を見直し、生物多様性の保全と持続可能な利用を国際的に進める必要性が高まっていきました。

このような背景のもと、「生物の多様性に関する条約(生物多様性条約)」は、地球規模での生物多様性の保全と自然資源の持続可能な利用を目的として、1992年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)で採択されました。条約への署名はこの会議から開始され、1993年12月29日に正式に発効しました。

日本もこの条約に加盟し、国内での法整備が求められる中で、2008年には「生物多様性基本法」が制定されました。この法律は、国際的な枠組みを踏まえつつ、日本国内での生物多様性保全政策を体系的に推進するための基本的な法律です。

さらに、2010年には名古屋市で生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10)が開催され、「愛知目標」と呼ばれる20の具体的な行動目標が採択されるなど、国際的な取り組みが強化されていきました。

3-2.生物多様性条約とは

生物多様性条約は、地球上の生きものの豊かさを守り、自然と人間の共生を目指すための国際的なルールです。内容は大きく分けて3つの目的があります。

生物多様性の保全

動植物や微生物など、さまざまな生きものが絶滅しないように守ることです。自然の中の生態系や種のつながりも含めて、大切にしようという考え方です。

自然資源の持続可能な利用

森や海、川、動物などの自然の恵みを、人間がこれからも長く使っていけるように、使いすぎたり壊したりしないようにすることです。

遺伝資源の利益の公平な分け合い

植物や動物の持つ特徴(遺伝資源)を使って得られた利益を、その資源がもともとあった国や地域ときちんと分け合うことです。

この条約には、「自然の中で生きものを守ること(生息域内保全)」と「動物園など自然の外でも生きものを守ること(生息域外保全)」が含まれています。また、自然を壊す前に影響を調べる「環境影響評価」や、地域ごとに昔から行われてきた自然との関わり(伝統的な利用)を大切にすることも重視されています。

3-3.生物多様性基本法とは

生物多様性基本法は、この国際的な条約の考え方を日本国内でも実現するために作られた法律です。

この法律は、次のようなことを基本として定めています。

  • 国や自治体、企業、市民が協力して、生きものの多様性を守り、自然を大切に使う社会をつくること
  • 自然と人間が調和して生きる「自然共生社会」をめざすこと
  • 地域ごとの自然や文化を活かして、その土地に合った取り組みを行うこと
  • 学校や地域などで、生物多様性について学ぶ機会(環境教育)を広げること

また、この法律にもとづいて、日本では「生物多様性国家戦略」という長期的な目標や具体的な行動計画がつくられています。

3-4.動物園の役割

動物園は、生物多様性条約において「生息域外保全(ex situ conservation)」を担う重要な施設とされています。これは、野生の生きものを自然の外(動物園や植物園など)でも守っていくという考え方であり、絶滅危惧種だけでなく、広くさまざまな生きものの飼育、繁殖、研究を通じて生物多様性の保全に貢献することが求められています。

具体的には、以下のような役割があります

種の保存と繁殖

絶滅の危機にある動物だけでなく、将来的に減少が懸念される一般的な種についても、計画的に繁殖させ、種の多様性を守る役割を求められています。

野生復帰の支援

一部の動物は、動物園で繁殖された後、野生に戻す取り組みが求められています。これは生息域内保全と連携した活動です。

科学的研究

生態や繁殖、生理などのデータを収集・研究し、保全に活かす役割も担っています。

教育・普及活動

来園者に生物多様性の大切さを伝えることも、動物園の大きな使命です。生きものを間近に見る体験を通して、自然とのつながりや保全の必要性を理解してもらう機会を提供することが求められています。

このように、動物園は単に動物を見せる施設ではなく、多様な生きものを未来につなげていくための「学びと保全の場」として、国際的にも重要な役割を果たすことが求められています。


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