第4話 「自然を感じ 自然から学び 自然を描く」
動物園をやめて、まずパスポートをとりアフリカへ行った。
飼育係時代から懇意にしてもらっていた竹田津実さん(北海道小清水町の獣医・写真家)に誘われた。彼はいつも言っていた。
「アフリカの水を飲むと、またアフリカに来る」と。
のちに、私もそうなった。
ケニア、タンザニアのサバンナだ。ゾウ、キリン、ライオン、ヌー、ダチョウ、シマウマが当たり前にたくさん堂々といる。生と死が日常にある。彼らは大自然の一部に過ぎず、ただ淡々とある。私も淡々と時間を過ごした。
ところが、あることに気づいた。
動物たち以上に存在感のあるものに気づいた。風、臭い、羽音、声はもちろんだが、とくに空と大地だった。
朝6時に太陽が昇りはじめると、地平線の向こうに雲の赤ちゃんがシャボン玉のようにブクブクと生まれ、。昼頃になると雲は塊となり、夕方、真っ黒い大きな雨雲となりザーッと大スコールがやってくる。夜、満点の星。
あっ、そうか、水の循環だ。
水が大地から水蒸気となって、雲となり空へ昇り、雨となってまた大地に帰ってくる。雨は草を育て、シマウマが草を食べ、ライオンがシマウマを食べ、ライオンが死に、その肉体をバクテリアが土に帰す。
水と生命が回っている。
頭ではわかっていたつもりだったが、実感した。旅はいろんなことを教えてくれる。旅を通して自然を感じ、自然から学ぶ。
その日のアフリカから私の絵が変わった。
動物園で動物学を学び、大自然を旅し、絵本という表現を楽しんでいる。それもこれも飼育係になってのことである。
寄稿者profile
あべ弘士(あべひろし、1948年-)
略歴
1948年 北海道旭川市生まれ。旭川市在住。
1972年から25年間、旭山動物園の飼育係として様々な動物を担当する。飼育係たちの間で話し合った“行動展示”の夢を絵として残し、旭山動物園復活の鍵となった。1996年動物園を退職し、現在は絵本制作を中心に、全国でワークショップなども行なっている。2011年には、こどもも大人も楽しめるアートスペース「ギャラリープルプル」の運営をはじめた。
著書に『あらしのよるに 』(講談社出版文化賞絵本賞受賞)、『ゴリラにっき』(小学館児童出版文化賞受賞)、『宮澤賢治「旭川。」より』(経産児童出版文化賞美術賞受賞)、『クマと少年』(日本児童ペン賞絵本賞・北海道ゆかりの絵本大賞受賞)など250冊を超える。
著書
・「あらしのよるに」講談社
・「どうぶつえんガイド」福音館書店
・「クマと少年」ブロンズ新社
・「新世界へ」偕成社
・「エゾオオカミ物語」講談社
その他多数