特集記事 World ZOOミュージアム 「言葉から動物園を見る2 展示配列」

動物園を設計しているTONZAKOデザインが、世界の動物園について、設計者の視点から、紹介していきます。その前に、動物園に関わる言葉について、整理しておこうと思います。

Contents (記事内容)

  1. 動物園の配置計画
    1. 系統分類学的展示配列
    2. 行動学的展示配列
    3. 動物地理学的展示配列
    4. 人文地理学的展示配列
    5. 気候学的展示配列
    6. 通俗的展示配列
  2. 動物園が伝えること

1.動物園の配置計画

動物園には、様々な展示の配列方法があります。展示配列とはグルーピングすることであり、グループごとに動物及びそれを取り巻く環境を伝えていくものです。つまり、パドックの配置順序です。ある一定のテーマのもと、エリアを設定し、その中に各パドックを配置していきます。

一般的なテーマでは以下のような項目があります。

1-1.系統分類学的展示配列

この展示配列は、動物学的な系統によって、動物をグルーピングし、配列するものです。霊長類や偶蹄目、食肉目などに属する動物をその分類群ごとに展示します。例えば、食肉目であれば、ライオンやトラ、チーターなどを同じエリアとして展示します。

系統分類学的展示によって、本来動物園が伝えなければいけない動物学という学術情報を、わかりやすく情報提供することができます。隣同士に近縁な動物が展示されていれば、外見がかなり異なっていても進化的に近いということが分かります。動物の進化や動物の形態や機能などを比較しながら、その差異をわかりやすく展示できるメリットがあります。また、飼育上も同じような動物が並ぶため、給餌や掃除などを効率的に行うことができます。

一方で、同じ系統の種であっても生息する大陸や、気候区分が異なるため、野生動物が生息する自然環境についてはわかりにくいデメリットがあります。

1-2.行動学的展示配列

この展示配列の特徴は、動物を行動様式に合わせて展示配置することにあります。たとえば夜行性動物は暗くした施設で、水生哺乳類はプールのある施設で、といった具合に展示を工夫します。系統分類学上は異なる動物でも、行動様式が似通っていれば同じような環境で飼育展示する方式です。

この展示配列は、動物がもつ行動特性を理解しやすく、さらに共通の環境に生息する動物を理解する上で役立ちます。夜行性動物の行動を昼間に観察できるため、適切な飼育方法を工夫したり改善したりすることができます。つまり、飼育技術者が夜行性動物の環境エンリッチメントを配慮する上でも好都合です。

この展示配列は、夜行性獣舎やプールなどコストがかかりやすい展示となります。夜行性といっても、完全な夜行性から薄暮型、また状況によっては昼間も活動する動物などさまざまなタイプがあります。こうした動物の特性も十分に踏まえた展示が必要となります。

1-3.動物地理学的展示配列

この展示配列は、動物地理学に準じたグルーピングによる動物展示の配置を意味しています。動物地理学とは、動物の地理的な分布や、その歴史的経緯または原因について研究する学問分野です。

動物地理学では、動物地理区という地球の地域的区分という概念が重要です。この区分は、大陸を旧北区(ユーラシア大陸)、新北区(北アメリカ大陸)、東洋区(東南アジア)、エチオピア区(アフリカ大陸)、新熱帯区(南アメリカ)、オーストラリア区の6つに区分して、そこに生息する動物の特徴を比較検討するのに役立っています。

動物地理学的な動物展示を行うことで、来園者は地球規模の動物進化の歴史や動物と生息地の関係を学ぶことができます。動物たちと彼らが生息する地域や気候風土との関連が理解できることがメリットです。

一方で、施設の建設費用が莫大になることや、まったく異なる食性をもつ動物が隣同士で展示飼育されているため、餌の内容もそれに合わせてさまざま用意し調理しなければいけないため、人的にも時間的にもロスが生じてしまうことがデメリットです。

また、動物地理区のエリアは、一般的に使用されている大陸の名称や区域と異なっています。それが、わかりにくいというデメリットもあります。

1-4.人文地理学的展示配列

人文地理区による展示配列も見られます。東アジア、東南アジア、ヨーロッパ、ロシア、北アメリカ、南アメリカ、オセアニア、北極、南極など、海外旅行をするような感覚で展示動物を分類します。

近年では、動物地理区と人文地理区が複合しているケースも少なくありません。

人文地理区は、一般的な人が感覚的にわかりやすく、各地方の文化などもわかりやすく展示することがメリットとなります。またイベントについても、北アメリカの日、オーストラリアの日など、料理や飾りなどでわかりやすく展開しやすいメリットもあります。

一方で、施設の建設費用が莫大になることや、まったく異なる食性をもつ動物が隣同士で展示飼育されているため、餌の内容もそれに合わせてさまざま用意し調理しなければいけないため、人的にも時間的にもロスが生じてしまうことがデメリットです。

1-5.気候学的展示配列

各動物の気候学的な生息環境、つまりハビタット(生息場所、生息環境)に応じて動物の展示を配置する方式です。

動物の生息環境とは、たとえばサバンナ(熱帯や亜熱帯地域の草原環境)や砂漠や熱帯雨林(ジャングル)や高山地帯などを意味しています。

熱帯雨林は、南アメリカ、東南アジア、アフリカなどに分布しています。地理区は異なりますが、気候条件により同じような植生が成立します。その中では、同じような生態系が構成されます。生態系を構成する動物は地理区ごとに異なりますが、同じニッチ(生態的地位)※1の動物種が存在するということです。

例えば、大型の霊長類として、フサオマキザル、オランウータン、チンパンジーは熱帯雨林の中で同じようなニッチ(生態的地位)を占めています。

こうした同様のニッチに位置する動物を含め、その生態系の中に生息する動物を一緒に展示していきます。

気候学的展示配列は、違う地理区でも同じような環境を呈しており、生態環境を伝えやすいメリットがあります。

一方で、生息場所の地理区がわかりにくいため、感覚的な理解が難しい面があります。また、地域ごとに環境へのインパクトが異なるため、人類と自然環境との関係性が伝えにくいデメリットがあります。

※1 ニッチとは、生息する環境において果たしている生態的な役割あるいは地位。 具体的には、すんでいる場所、餌や捕食者(天敵)の種類などが問題になります。

1-6.通俗的展示配列

通俗的展示法は、人気が高い動物や、来園者に好まれる展示を前面に出す方式です。

具体的には、子どもたちに好評な「ふれあいコーナー」や「こども動物園」の中で、ウサギやモルモットやミニブタやヤギなどをまとめて、展示する方式がこれに当たります。また、かわいい姿の幼獣や鳥のヒナ、レッサーパンダやペンギンなどの人気動物、そして珍奇動物やアルビノ種などを、動物分類群とは関係なく並べて展示する方式でもあります。

この展示方式は、動物に対して親しみを持ちやすい点がメリットとなります。反対に親しみを重視するあまり、動物学的および科学的な要素が失われがちになる点がデメリットとなります。

これらの展示では、命の大切さや、地球上にともに生きる動物への初歩的な理解など、何を伝えていくかを検討することが重要となります。

2.動物園が伝えること

動物園を構成する中では、こうした展示配列を組み合わせて展開することもあります。人文地理学的配列+気候学的配列になると、例えば「アフリカの熱帯雨林」などのようなグルーピングとなります。また一部に通俗的展示配列、その他を動物地理学的配列にすることもあります。

展示配列は、利用者に動物に関するいろいろなことを伝えていくための、配置計画です。伝えたいことに応じた展示配列とすることが重要です。

動物園では、来園者に「何を伝えていくのか?」を考えながら、この展示配列の中に映画のようなストーリーを埋め込んでいきます。

伝える内容は、各動物園の理念、使命、目標に基づき、各展示エリアで設定していきます。伝えるためには、動物のコレクション計画や動物展示の順序などの前提、空間、景観、解説サイン等のハード面、インタプリタ―やパンフレットなどのソフト面など、全ての面で、「伝えること」を意識しながら、構成していくことが重要となります。


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