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畑で学ぶ国語算数理科社会 ~教育ファームの試み~

 都会の片隅の新興住宅地の農業の「の」の字もリアルに感じることのできない環境で生まれ育ちました。

 周辺にわずかに残る柿畑や梅林は今にしてみれば恐らく税金対策のために残っていたのでしょうか。働く農家の姿は見たことがありませんでした。養鶏場も残っていましたが「臭いにおいのする場所」としか思っていませんでした。

 そんな自分が農業に関心を持つきっかけとなったのは都会の真ん中の一坪程度の小さな貸農園を借りたこと。

 当時はインターネットもありませんでしたので、野菜作りの本を読みながら見様見真似でやってみると・・・・売っている野菜には及びもつきませんが食べられる程度のものはできてしまったのです。

 ちょうどそのころ暮らしていた自治体が農業ボランティアを養成する講座を開きますという知らせがありました。

 プロの農家は何を作っているのかな?

 どんなふうに作っているのかな?

 ボランティアになるぞーというよりはそちらの興味で参加することにしました。

 今まで「雲の上の存在」だった農家の方たちとの交流がはじまりました。

 ニンジン、キャベツ、タマネギ、トマト、お米、梅、ブドウなど様々なものを育てています。

 作物に応じて農作業や出荷作業など人手が必要な時期にいろいろな仕事のお手伝いをさせていただきました。

 農業だけで稼ぐことの大変さとともに、なんだか楽しい仕事だなと感じさせていただく宝物のような時間となりました。

 そんな思いが募りすぎたのか、前職の職場は農業生産法人となりました。そこは農業の6次産業化といいますが、農業だけでなく農産物を使った加工品づくりや飲食や販売まで手掛ける会社で、所属は農業部門とはならなかったのですが、農業が様々なビジネスに波及できることを身をもって感じることができました。

農業の抱える問題

 農業の抱える問題は様々なものがあります。

 一番の問題は何といっても「不安定」こと。

 台風や長雨、日照り続きなど神様に祈るしかない天候

 異常なまでの暑さやゲリラ豪雨といった農産物には厳しい気候変動

 人様の食べ物を横取りする虫や獣たち

 相場に左右される価格

 コロナウイルスなどなくても毎年こうした問題と立ち向かって農家は何とか日々の糧を確保します。

 そして「担い手不足」

 サラリーマンとは違って安定した収入が約束されていないこと、肉体的にも大変な仕事であること、そして少子高齢化などの理由から農家の子息は後継者とならず、新規参入もあるものの全体としては農地を引き継ぐ人は減り続けています。

 こうした課題を解決するために、近年取り組みが進んでいるのが他の産業と同じく、ICTやAIといった技術の導入です。テレビドラマで自動運転のトラクターを見た方も多いと思いますが、農家の知識や知恵、労力を最先端の技術を使って再現し、誰もが農業をできるようにという「スマート農業」と呼ばれる取り組みです。

大きくなったら農家になりたい

 技術によって農業の様々な問題が解決できる時代がそう遠くない未来に来るかもしれません。でもその技術を使いこなすためには、そして生産したものを販売するためには人の力が必要です。

 毎年子供たちが大きくなったらなりたい職業というものが公表されます。男の子ならスポーツ選手など、女の子ならパティシエや看護師さん。最近はユーチューバーなどもあるようですが、大災害のあとには自衛隊も入っていたような覚えがあります。

 しかし残念ながら「農業」というのは子供たちの頭の中には思い浮かばないようです。

 お遊びからボランティアへ、そして職業としての農業へと様々な立場から農業に携わってきましたが、農業の未来を担う人を増やすためには、子供たちに「農業」という仕事を頭に思い浮かべてもらえるような取り組みの必要性をとても感じています。

教育ファームにチャレンジ

 運営にあたっている農業公園の近くに小学校があります。

 コロナウイルスの影響で学校の外で行う行事がことごとく中止になっているようで、学校の先生から子供たちに何か外で活動させたいので協力してもらえませんかというお話をいただきました。

 すぐに頭に浮かんだのが教育ファームというプログラムです。

 農業公園なので農業を体験してもらうのは当たり前ですが、そこに日々の学校での勉強を組み合わせます。

 何で漢字を覚えなければいけないの??

 何で九九を覚えなければいけないの?

 何でおしべとめしべを知らなければいけないの?

 何で地図を見ていろいろな国を覚えなければいけないの?

 教育ファームは学校で勉強していることの意味をリアルに感じてもらう手段にすることができます。

 11月はちょうどタマネギの植え付けの時期になります。

 子供たちに勉強の大切さや社会とのつながりを少しでも感じてもらいたい、そして「農業」を身近に感じてもらい、職業として少しでも意識してもらえればという下心も持ちつつタマネギを題材にしてプログラムを考えて実行してみました。

社会×理科×算数×農業

 まずはタマネギの勉強から。

 タマネギの原産地はどこでしょうか?

 用意した世界地図に自分がここだ!と思う場所にしるしを付けてもらいます。

 タマネギだけでなく、多くの野菜が他の国々から伝わってきたこと、その時代もさまざまであることなどを知ってもらいました。

 タマネギの消費量は野菜の中で何番目?

 どんな食べ方がある?

 食べているのはどの部分?

 今日植えたらいつ頃収穫できる?

 子供たちにタマネギ博士になってもらおうと言葉を交わしながら進めていきます。

タマネギの原産地はどこかな?

 そしてタマネギを植える畑を皆で測ってもらいます。この畑にいくつのタマネギの苗を植えることができるのか計算してみよう。

 先生がこんな熱心に計算している姿は初めてかも・・・とつぶやくそばで、子供たちは「何本だー」と叫んでいます。

 そして必要な数の苗をとってもらって植え付けをしてもらいました。

国語×図工×野菜

 お次は、せっかく植えたタマネギを公園に来る人たちにも知ってもらおう、ということで看板を作ってもらうことにしました。

 公園の中にはタマネギ以外にも様々な野菜を育てています。ついでに他の野菜の看板も作ってしまおうということで、公園の中を探検しながらいろいろな野菜を覚えていきます。

こちらから看板にこれだけは必ず描いてねとお願いしたのは野菜の名前だけ。字でなくても絵でもいいですよと伝えます。

あとは子供たちにお任せです。

限られたスペースの中で何を表現するのか?

レイアウトはどうする?

字にする絵にする?

色は?

 子供たちは学校で事前に野菜の勉強もしてきたようで、こちらが思いもつかないような質問も浴びせかけてきます。タジタジとなりつつ、今は便利な世の中だねとごまかしながらスマホの力も借りて少しだけアドバイスもしてみます。

 出来上がった看板を畑に設置して授業は終了です。

 子供たちにまた来てねーと声をかけてお別れする時に、

 「毎日来たいよー」

 と叫んでくれる子供もいました。

 この子たちが大きくなった時に、どんな大人になってどんな仕事をするのでしょうか。

 それがわかるのは10年以上先のことです。

 ドキドキしながらこんな取り組みを続けていきたいと思っています。

Written by 小森

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