特集記事 World ZOOミュージアム 「言葉から動物園を見る1 動物園の施設」 

動物園を設計しているTONZAKOデザインが、世界の動物園について、設計者の視点から、紹介していきます。その前に、動物園に関わる言葉について、整理しておこうと思います。

Contents (記事内容) 

  1. 動物園という名称
  2. 動物園の施設構成
    1. 観覧園路・広場
    2. ビューイングシェルター
    3. パドック
    4. バリア
    5. 獣舎
    6. サブパドック
    7. 管理通路

1.動物園という名称

僕たちは、野生動物が飼育繁殖、展示解説され、生き物の「種の保存」を生息地の域外で行っている施設を動物園と呼んでいます。動物園と言われれば、多くの人は同じような施設を思い浮かべることができるでしょう。

この「動物園」という言葉。誰も何の不思議も感じず、使っていますが、この呼び方はこれからの「動物園」にふさわしい呼び名なのでしょうか?「動物園」を一般人が楽しめるようになったのは1840年代で、料金面も含めて大衆に開かれたロンドン動物園が最初だと言われています。

このころ西洋では「zoological garden」と呼んでいました。「zoological」は「動物学の、動物に関する」という意味、「garden」は「庭、庭園、果樹園、菜園」という意味です。

日本に西洋の「zoological garden」を紹介したのは福沢諭吉です。その時「動物園」と訳し、そこから、日本の動物園の歴史が始まりました。

この「動物園」という言葉。

今後の「動物園」は、生物多様性を保全するための「種の保存」や「環境学習」の場としての役割が求められます。生態系資源となる動物と、人類との関係性のあり方を伝え、考え、実践する基礎を習得する場となります。

「動物園」、動物に関する庭でいいんでしょうか?

より良い答えはまだ見つかっていません。

2.動物園の施設構成

動物園の空間は、観覧及び展示エリアと管理エリアに分けられます。観覧展示エリアには、観覧園路・広場、ビューイングシェルター、パドック、バリア等が配置されます。管理エリアには、獣舎、サブパドック、管理通路等が配置されます。

2-1.観覧園路・広場

観覧園路・広場は、観覧者が動物を見るために、歩き、立ち止まる空間です。海外と日本の動物園を比較すると、日本の方が園路幅が広い傾向にあります。日本の動物園利用がゴールデンウィーク等、休日に集中する傾向にあるため、幅を広く取り、多くの人が混雑することなく、流れるようにしています。

観覧園路には動物との境界として、立ち入り防止の手すりが設置されます。来園者と動物の接触によるけがなどを防止するためです。

2-2.ビューイングシェルター

ビューイングシェルターは、観覧者が動物を見るための建築物です。東屋のような形態、洞窟のような形態など、多様な形態があります。

ビューイングシェルターにはガラス越しに動物を見ることができるものもあります。ガラスを用いることで、動物を間近に観察することができます。一般的には、ペアガラスが用いられ、1枚のガラスが割れても、すぐに動物が逃亡できないような構造となっています。

2-3.パドック

パドックとは、動物園の開園時間中、動物を飼育展示する空間です。別名、放飼場と言います。動物にとって、空間的な大きさ、多様性、変化などが大切になります。

「空間的な大きさ」については、地上を移動する動物にとっては面積(2次元空間)、樹上性の動物などにとっては容積(3次元空間)が重要となります。「多様性」については、水辺、草地、樹林などの環境の他、空間的な複雑さなども大切となります。「変化」については、エサを与えるフィーダー装置などによる瞬間的な変化、パドックの改修などによる変化、匂い、風、日陰など日常の変化など、多様な要素があります。

2-4.バリア

パドックには、バリアと呼ばれる動物の逃亡を防ぐための施設があります。動物の特性に応じて、堀、水堀、壁、金網、柵、ガラスなどの物理的な逃亡防止対策が取られます。

また、電柵などの逃亡を抑制する対策も行われますが、この抑制対策だけでは、適正な逃亡防止対策とは言えません。電柵があっても、動物がその刺激に瞬間的に耐えることができれば逃亡できる、電気の放電や故障などにより、通電していない可能性もあるためです。

バリアを設けますが、動物は個体ごとに能力が異なり、完全に逃亡防止できるとは言い切れません。しかし、一般的には動物園の動物は逃亡しません。動物園の動物は、基本的に敵がおらず、エサも適正に与えられるため、恐怖や驚きなど余程のことがない限り、自発的に逃亡することを試みないのです。

2-5.獣舎

獣舎とは、夜間に動物を収容する施設です。獣舎は通常、寝室と飼育通路で構成されます。寝室は、妊娠や子育て、病気や群れから外れた個体を収容する個室なども設けます。

群れで生活する動物は集団の寝室、個で生活する動物は個室となります。寝室の中でも動物が精神的、肉体的に健康が維持できるような空間とします。

獣舎は基本的にセカンドキャッチと呼ばれる二重の脱出防止対策が講じられます。鍵なども2か所つけるなど、安全対策には細心の注意を払います。

獣舎からパドックへ動物を移動させる手順をオペレーションと呼びます。オペレーションは自動化されたケース、手動のケースがあります。シンプルで死角のないオペレーションが事故を未然に防ぐポイントとなります。

2-6.サブパドック

サブパドックは、病気個体や群れから外れた個体、精神的に安定しない個体などをバックヤード(管理スペース)と呼ばれる観覧者から見えない場所で飼育するためのパドックです。

サブパドックがあることで、動物は寝室内だけに閉じ込められることなく、十分な太陽光の下で生活できます。

2-7.管理通路

管理通路は、飼育員が動物を飼育するために利用する空間です。各寝室内が見やすく、パドックへのオペレーション上も死角がないように管理通路を設けます。

管理通路には、各動物のエサを入れておく冷蔵庫や簡易な料理ができるシンクなども設けられます。病気や出産の際には、飼育通路に飼育員さんや獣医さんが夜通し詰めるケースもあり、動物が健康に過ごすための大切な管理スペースとなります。


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